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大阪地方裁判所 昭和32年(ワ)4057号 判決 1965年12月24日

原告 山本吉次郎

<ほか六名>

右七名訴訟代理人弁護士 浅井稔

被告 林文蔵

<ほか五名>

右六名訴訟代理人弁護士 豊川忠進

主文

被告等は各自原告等に対し金二一万円及びこれに対する昭和三二年九月二〇日以降完済迄の年五分の金員を支払え。

訴訟費用は被告等の負担とする。

この判決は仮りに執行することができる。

事実

原告等の訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、

請求原因として

「一、原告等は昭和三一年一月一七日被告等六名外七名等と共に合計二〇名で別紙記載の講規約を結んで、毎月三万円掛、二〇回終了の頼母子講をおこした。

二、原告等は、同年一月から昭和三二年一月まで、いずれも落札することなく毎月三万円宛合計三九万円の掛込をなし、その間被告等その他合計一三名の者は落札したが、右講は世話役である嘉手刈東三の掛込金費消と落札者の掛込金不払のため、講の目的たる事業(講員相互の金融)の成功不能となり解散した。

三、ところで、本件講は毎月一回集会入札により落札者を決定し、その回の掛込金より落札金を右落札者に支払い、落札者は残回数に相当する期間の掛込をなすべきもので、講員の権利は一回の入札による落札金をうけ得ること、もし落札金をうけられないときはそれ迄の既落札者に対し未払掛込金の支払を請求し得ること、落札前に於ては他の落札者ある場合配当をうけることにあり、その義務は毎回の掛込金を支払うこと及び講員の内掛金支払不能(無資産、逃亡等一般にやむなきものと認められる場合に限る。)の場合には講員全体の連帯責任を以てその支払をなすことにあるのであって、講元である嘉手刈東三は同人個人の事業として講員を募集し、自らの責任で講を運営するものではなく、講員が一団となって協力し相互の金融を目的事業とする講のため、講員全員の委託により毎月の集会における掛金の受取、落札金の支払をなす等講の業務の執行に当っていたもので、他の講員と同一の権利義務を負担し、最初の落札金を無利息で利用し得る外特段の権利義務を負担するものではなく、従って講員の掛込金はいずれも講員自ら集会に出席し、かつ、その場に提供し世話役の手を通じて直接落札者に支払われたのが実状である。

以上の事実関係からみて本件頼母子講は民法の組合類似の性格を有するものというべきである。

四、本件講は前記のとおり解散したので清算手続に入り財産関係を整理することとなり、未落札者たる原告等が共同で清算することとなった。(組合に於ては原則としてすべての組合員が清算人となり共同して清算事務を行い、その事務の執行方法は常務は単独で、その他は過半数で決するのであるが、組合類似の講に於て業務執行者の選任方法はたとえ講規約に全員の過半数でなすとある場合でも、掛込債務の不履行の続発や本件の如き講解散の場合に利害を感ずるのは未落札者のみであり、従って特殊な事情がない限り未落札者の過半数の決議によれば足りる。大判昭17・10・22法学一二巻四一九頁。大判昭13・7・13判決全集五輯一五号一三頁参照)

五、ところで、落札者である被告等はいずれも昭和三二年二月から同年八月満期までの七回分合計二一万円の掛込金の掛込をしないから、原告等は清算人として共同して右の掛込金請求権を行使し、被告等各自に対して金二一万円宛及びこれに対する昭和三二年九月二〇日以降右完済迄の年五分の割合の金員の支払を求める。」

と述べ、立証≪省略≫

被告等訴訟代理人は「原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」旨の判決を求め

答弁として

「原告の主張事実中、原被告等その他合計二〇名が昭和三一年一月一七日、毎月三万円掛、二〇回終了の頼母子講をおこしたこと、被告等が落札して講元嘉手刈より講金を受領したこと、右嘉手刈が掛込金を費消したことは認める。原告主張の別紙記載の講規約を結んだことはないが、毎月一七日午後七時講元嘉手刈宅に集会したことは認める。その他の原告の主張事実は争う。

本件頼母子講は訴外嘉手刈が講元となって講員一九名を集めて毎月一回自宅に会合を催して入札の方法により落札者をきめ、これに落札金を手数料を差引いて交付し、落札者はその翌日から終講に至るまで毎月三万円を掛戻すことになっていたもので講金の掛込はすべて講元に持参して支払い、講元は講金の収納、入札、落札、落札金の支払等一切のことを司っていたもので、講員相互間には何等の法律関係もなかったものである。而して、講の進行方法は(イ)各講員は毎月一七日講元の家に三万円宛持参する(ロ)最初の一回は講元が無条件で取得する(ハ)次回よりは入札の方法によって最高額入札者を落札者としてその入札額を差引いた金額を貸与する(ニ)入札金額は配当金としてその場で実掛者のみに払戻す(ホ)落札者はその翌日より終講まで毎月三万円宛講元に持参して支払う(ヘ)講員は落札者、未落札者の別なく相互に保証することなどであった。従って被告等は講金の掛込金を講元の嘉手刈に支払う義務を負担するもので原告等に支払うべきいわれはないので、この点に於て既に原告等の請求は理由はないのみならず、講元嘉手刈との間に於て、被告林は昭和三一年一二月一八日同日以降の掛込金の掛込は講元嘉手刈が右被告に支払うべき落札金の内の未払金二七万円を以てあてること、被告池原は同年一〇月一五日同日以降の掛込金の掛込は右嘉手刈が同被告に支払うべき落札金の内金三三万円を以てこれにあてること、被告仲栄真は昭和三二年一月一〇日同日以降の掛込金の掛込は右嘉手刈が同被告に支払うべき落札金の内の未払金二四万円を以てこれにあてる特約をし終講に至るまでの掛金を全額支払ずみであり、被告与儀は昭和三一年一二月一七日迄に合計三六万円を支払って掛金全部を支払ずみであり又講元嘉手刈は被告照屋が落札した際落札金五一二、二〇〇円をうけとるべきところ、掛込金が集まらぬため講元はその落札金の内金支払のため小切手三通(合計二一万三〇〇〇円)を右被告に交付したが右小切手は不渡になったので、結局右被告は右二一万三〇〇〇円の支払をうけられず、落札金の内二九九、二〇〇円を受取ったに過ぎぬので、既に支払った掛込金三九万円(一三回分)にも足りぬのである。

よって、原告等の請求には応じられない。」

と述べ、立証≪省略≫

理由

原被告等合計二〇名のものが昭和三一年一月一七日、毎月三万円掛、二〇回終了の頼母子講をおこし、毎月一七日午後七時講元嘉手刈宅に集合したこと、被告等が落札して講元嘉手刈より講金を受領したことは当事者間に争がない。

≪証拠省略≫によると、本件講は訴外嘉手刈の事業資金調達援助を主たる目的とし、合せて講員の貯蓄、相互金融を目的とするもので、毎月一七日午後七時の集会に講員は講元の落手刈方に講金三万円宛を持参して参集し掛込をなし、而して初回は右嘉手刈が入札を用いず落札者となり優先的に掛込金全額を受領すべく、二回以後は毎回入札の方法により最高額入札者が落札者となり(講員は唯一回丈落札者となれる。)その回の掛込金から入札額と花くぢ一〇〇〇円雑費一〇〇〇円とを差引いた金額を受領し、落札者は残回数に相当する期間毎回三万円宛を掛込すべく、未落札者は落札者の入札金円を配当として分配をうけ受領する、而して講員の内無資産、逃亡等やむを得ない事由により掛込不能のものが生じたときは他の講員全員が連帯してその者の掛込金支払の責に任ずること、嘉手刈は本件講の集会の場所の提供、講員の委託による毎月の集会における掛金の受取、落札者に落札金の支払をなす等の業務にたずさわっていたが、最初の掛込金を利用し得る外、他の講員と同一の権利義務を負担し、何等特別の権利義務を有するものでないことが認められ、右事実によると本件頼母子講は嘉手刈を親とする親頼母子講で、講員相互間は講規約、慣行等特段の合意がない限り民法の組合の規定を類推適用すべき民法上の組合類似の講である。

≪証拠認否省略≫

被告等は本件講は講元である嘉手刈が自己の事業として講員を募集し一定の時期毎に各講員をして掛込金の払込をなさしめ、これを入札の方法により講員に貸与するものであって、講元と講員間にのみ法律関係を生じ、講員相互間には何等の法律関係は生じないと主張するが右主張事実を認めるに足る証拠はない。

ところで、本件講は第一三回の集会迄の掛込はなされたが、その後は講元嘉手刈の掛込金費消と被告等落札者の掛込金不払のため講の目的(講員相互の金融)の成功不能により解散したことは≪証拠省略≫により明かである。そうすると本件講は清算手続に入るべく、而して組合類似の講に於ては清算事務の主たるものは落札者よりの掛込債務取立とこれを未落札者に配分することにあって、従って清算事務に於て利害を感ずるのは未落札者のみであるから、民法第六八五条、第六八六条を類推適用して未落札者たる原告等が共同でこれにあたるべく、その業務執行はその過半数で決すべく、右決議によって原告等に於て落札者に対してその不払掛込金請求をなし得るものである。(清算事務の遂行とみず、掛戻金の滞納者に対する単純な掛込請求とみたとしても、そして本件の如く掛込金の受取等の仕事を担当する講元がある場合でも、講の特異性と講元嘉手刈が講の事務遂行を放棄した事実にかんがみると、本来満回となってそれぞれ掛込金を取り当て受領しておるべき原告等が共同して自ら掛金滞納者に対して払込請求権を有するものと解するのが相当である。)

ところで、被告等はいずれも落札者で被告等につき本件講の一四回以後の掛込が現実になされていないものなるところ、被告等はその主張の事由により掛込をなすべき義務はないと主張するが、本件講では講員相互間には何等の法律関係は生じない旨の点は前記のとおり理由なく≪証拠省略≫によると、被告林の落札後の掛込金については、同被告が右嘉手刈に対して三〇万円余の工事代金債権を有していたので、その支払をうけるに代えて右嘉手刈が右被告に代って右掛込をなす合意が両者の間に成立し、又被告池原の落札後の掛込金については同被告が右嘉手刈に対して有していた材木代金の支払をうけるに代えて、右嘉手刈が右被告に代って右掛込金の支払をなす合意が両者の間に成立し、又被告与儀の落札後の掛込金については同人が受け取るべき落札金不足額二四万円余を右嘉手刈が右被告に支払う約定をなすと共にその支払に代えて右嘉手刈が右被告に代って右落札後の掛込金をなす約定が両者の間に成立し、又被告仲栄真の落札後の掛込金については同被告が右嘉手刈に対して有していた貸金債権支払をうけるに代えて右嘉手刈が右被告に代って右掛込金の支払をなす合意が両者の間に成立したことが認められ、右各合意は当該当事者間に於てのみ効力があるに止まり、右嘉手刈が右掛込金の支払をしない以上右各被告は原告等との関係に於て掛込金支払債務を免れ得ない筋合であり、又被告照屋は受取るべき落札金の一部不足があったという丈で他に特段の事由の主張立証ない以上、いまだその後の掛込金支払債務を免れ得ないものというべきである。

≪証拠認否省略≫

そうすると、被告等はいずれも一四回から二〇回までの七回分の掛込金合計二一万円の掛込(最終回の掛込期日昭和三二年八月)をなすべき義務があり、未落札者たる原告等は共同で各被告に対し右金二一万円宛の支払を請求し得る権利があるから、各被告に対して金二一万円宛及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和三二年九月二〇日(最終掛込期日後である。)以降完済迄年五分の遅延損害金の支払を求める原告等の本訴請求は正当である。

よって、民事訴訟法第八九条第九三条第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 井上三郎)

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